藤子・F・不二雄のSF短編集。
もの凄い分厚さの愛蔵版の第一巻である。
読んでいると、段々疲れてくるが、それでもページを繰る手が止まらない。
以下、印象に残った作品。
<ノスタル爺>
太吉は戦後三十年間ジャングルに一人取り残される。
やがて発見され、帰還した彼を待っていたのは、ダム建設のために水没した故郷の村と、妻の墓だった。
気のちがった爺さんの、「抱けーっ!」という台詞が忘れられない話。
主人公の選んだ生き方は、美しいようでもあるが、「抱け」と叫んだ爺さんの心情を思うと、彼にとって運命はあまりに残酷である。
いつか、閉じられた時の流れが変化することがあるのだろうか?
<ヒョンヒョロ>
ある日、小さな男の子マーちゃんの前に、円盤に乗った大きなうさぎちゃんが現れる。
うさぎちゃんは、「ヒョンヒョロ」なる物をよこさないと誘拐する、という手紙をマーちゃんに渡す。
しかし、マーちゃんの両親や警察もその手紙を真剣に読んでくれないのであった…。
うさぎちゃんは可愛い。しかし、どことなく……。
F先生の絵柄だからこそ生まれる、終盤の一コマの破壊力がすごい作品。
<ミノタウロスの皿>
乗っていた宇宙船が故障し、主人公(21エモンそっくり)は命からがら、見知らぬ星へと降り立つ。
そこで彼は、ミノアという地球人と同じような姿をした少女に助けられる。
ミノアは美しく、優しかったが、食事のことを「エサ」と言ったり、自分の体に傷がつくことを異常に嫌がるなど、どこかが変。
あるとき、指にバラのとげが刺さってしまったミノアは、医者を呼ぶ。
しかし、やってきた医者は、なぜか二足歩行をする牛だった!?
F先生の短編の中でも、特に有名な作品。
「生き物を食べる」ってことは、日常行っていることだが、デリケートな問題である。
何なら食べてもいい、何なら食べてはいけない。
誰にも明確な答えは出せないが、心情的に自分が食べたくないもの、人に食べられたくないものはある。
鯨を食べるなとか、犬を食べるなとか。しかし、それが正しいと言い切れるわけがない。
それなら、犬はだめで牛はいいのかという話になる。野菜だって、生きている。
つまり、人間皆、食べ物に関しては矛盾を抱えているわけである。
ラストシーンの主人公のように、結局そうして生きていくしかないのだ。
要は、その割り切れなさを自覚しろってことだろう。
とはいえ、会話の成り立つ相手を食べるのは、かなり抵抗があると思うが…。
それにしても終盤、ミノアが宴の場に運ばれていくシーンが素晴らしい。
コマの流れがまるで映画のようで、かっこいいのである。